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バグダッド見聞記
物乞いに芸を教えたい
2004年7月号(通巻56号)/680円
 2004年7月号から:

【連載】オタクになりたい人のためのタイ芸能講座
文 バロン・フォン・ラシク

ウ・ハルタイ

 



デビューアルバム『』。力強くもまだややあどけなさの残るウの歌声を堪能できる。「マイ・ラック・ディー」「ルー・トワ・ルプラーオ」収録

 アジアの女性はたくましい。とりわけタイは男の甲斐性のなさがアジアでトップクラスである分、よけいに女性の強さと働きぶりが目立つ。

 BTS(高架鉄道)に乗っているのは外国人と女性ばかり。地方に行けば健気に店の手伝いをする少女の横で、男が日がなビールの栓で将棋を指している。実質的なGDPの担い手をミクロのレベルできっちり調査すれば、きっと目を覆いたくなるような数字が出てくるに違いない。タイは女性で持っているようなものである。


ソロデビューアルバム『ザ・ボイス』。「チャ・パーワナー」「コン・ゲン・コーン・チャン」収録

 こんな女のたくましさはタイのポップス事情にも反映されている。群れるのが得意な軟派男たちのおかげで白組バンドシーンは大盛況だが、力強さを売りにした男性ソロシンガーとなると急に層が薄くなる。一時ソロ活動していたアンポン・ランプーンやビリー・オーギャンが硬派不良ロッカーとして鳴らしたのは大昔の話。最近で頼りがいありそうな男といえばトゥイ・ティラパットに種馬系ピーターくらいのもの(演歌に行ってしまえば土方系のマイク・ピロムポンなど頼りがい満点)。タイの男はたいてい中性的か甲斐性なしで、強くて頼れる男などはなから期待されていない。

 その逆に、強くたくましい女性シンガーはやたら多い。古くは元祖お色気スター、ペンパック、現役セクシーダイナマイト、マイ・ジャルーンプラ、姉御肌エーム・サワラック、スケ番ロッカー、ウェーン・ティティマー、野性派スカンヤー・ミゲルなどなど……。ケツでも撫でようものならビンタどころかハイキックが飛んできそうな男勝りばかりである。タタヤン以降、かなりアイドルが幅を利かせるようになってきたが、タイポップス紅組の歴史はこれら男勝りの女たちが作り上げてきたといえる。


アサニー・ワサンのカバーコンピレーション『ロン・ウーイ』。「ハイ・マン・ペン・パイ(byウ・ハルタイ)」「タンタン・ティー・ルー(byシリー・フールズ)」収録。後者は原曲を超えたスーパーカバーとして知られ、シリーが大ブレイクするきっかけともなった

 そんな男勝りたちの中で、実力派最右翼と目されるのがウ・ハルタイである。ウは97年、紅一点ポップバンド、ペーパージャムのボーカリストとしてデビュー、伸びのあるボーイッシュなハスキーボイスで多くのファンを獲得、最強レーベル、モア・ミュージックの創世期に多大な功績を残した。その後しばらくのブランクを経て、2000年にはアサニー・ワサンのカバー集『ロン・ウーイ』、女性シンガー7人の超豪華抱き合わせユニット『セブン』に相次いで参加、抜群の歌唱力で存在感を見せつけた。『セブン』が単なるお色気てんこ盛り集団に陥らずにすんだのも、本格派のウが入っていたおかげであろう。

 そして翌2001年には満を持して初のソロアルバム『ザ・ボイス』をリリース、ペーパージャム時代に比べてぐっと大人っぽくかつパワフルになった歌声でファンを魅了した。隣国の民主化リーダーを彷彿させる凛としたルックスも世の女性たちの憧れの的。ウの登場でタイ女性の男離れは一段と加速したようである。

 タイの音楽シーンは今、ひとつの節目を迎えており、キャリアを積んだ歌手の集大成的なコンサートや古いロックバンドの再結成がブームになっている。ウの作品はまだそれほど多いわけではないが、すでにベテランとしての風格は充分。一日も早い大ホールでのソロコンサート実現が待ち望まれる歌手の一人である。


 
【筆者略歴】
某薩摩藩士の血を引くタイ音楽狂。ダイヤ・ブローカー、真珠研磨職人、塾・語学教師、翻訳業、香木商、画商、金貸しを経て、現在、音楽ライター。ライブ出撃回数は数百回を超える。30代後半での隠居をもくろんでいる。

 

 

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