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  ギャンブル街道をゆく
  アジアで働く
  旅のカラクリ
  ナンパラ
北朝鮮でGダイアリーを売りたい
カルカッタの売春窟に潜入
2004年9月号(通巻58号)/680円
 2004年9月号から:

【連載】駐妻レイ子の雄叫び
by 谷崎レイ子

第1回:バンコク赴任歓迎会〜それは〃駐妻のディープな世界〃へのプロローグ

 
 
 
 思い起こせば約1年前、夫のタイ駐在に伴って、バンコクに住み始めたばかりの頃のこと。

「わーい、バンコクに赴任! 毎日マッサージに行ける〜! 毎日スイカジュースも飲めるし、フレッシュマンゴーも食べれる〜! 常夏の国だから、夜遊びだって思いっきりできるじゃ〜ん! 日本で毎日深夜まで働いていた生活とはうってかわって、天国のような暮らしが待っている〜!」 

 などと赴任前にノーテンキに妄想していたことは、いざ住み始めるとあっけなくくずれさった。実際は、天国どころか、意味不明なしがらみだらけ。夫の会社の、タイ語学校の、はたまた同じマンションの日本人奥様方が繰り広げる摩訶不思議&ディープな世界が、協調性&一般常識に欠ける28歳、ダメ妻の私を待ち受けていたのであった。

 来タイ2週目の土曜日。ダンナの会社の駐在員&その奥様方が、私たち夫婦の歓迎会を開いてくれると言う。めんどくさいけど、こればかりはパスできないよなーと、スクムビットにある日本料理屋に向かう。ダンナの会社には来てすぐに挨拶に行ったから、駐在員のオジサマたち8名の顔は知ってるけど、その奥様方とははじめてのご対面。会社にはスーツ着ていったけど、土曜の日本料理屋にスーツじゃヘンだし、何着ていけばいいか、ぜんぜんわかんない。わかんないから、いつもの格好でいっかと、ジーパンと露出度高めのノースリーブにしたのが間違いだった。

「どうも、谷崎です。よろしくお願いします」

 と、年の頃33〜45歳くらいの、奥様方総勢6名に作り笑顔で愛想を振りまいてみるが、反応はイマイチ。あれ、やっぱりこの服装がまずかったかしらと思って他の奥様を観察してみると、みんな上品なワンピースとか着ちゃってる。あ、私だけ浮いてる……。

「若い方はいいわね、そんな服装が出来て。でもこういう場ではジーパンはふさわしくないし、露出が高いのもどうかと思うわ。男性も、お子様もいるんだから」

 案の定、支社長婦人からお小言をいわれる始末。あー、しょっぱなからやっちゃったか。

「はぁ、すみません。以後気をつけます」

 としおらしく反省ポーズをとってみるものの、何でこの歳になって服装の注意とかされるわけ? うざいオババだわ、私がどんな格好しようと自由じゃないのっ! と心の中で毒つく私。反応はイマイチの他の奥様方からも、ちらちらと視線は感じる。新人の品定めってことらしい。

 そんな中、とりあえず私とダンナのお披露目ってことで、真ん中に座らされ、支社長から歓迎のお言葉をいただく。

「え〜、谷崎くんの仕事ぶりは大変優秀で、今後の活躍を期待しておるわけですが……奥さんは内助の功でしっかり支えてあげてください」

 ちょ、ちょっと待ってよ。一昔前の結婚式じゃないんだからさ。途中はだるくて聞かなかったけど、最後の〃内助の功〃って一体なによ? それって死語だよ、死語! と、心の中で再び毒つきながらも下っ端のダンナの妻(=当然奥様のなかでも下っ端)らしく

「温かいお言葉ありがとうございます。未熟者の私たちですが、ご指導のほど、よろしくお願いします」

 などと、これまた結婚式の締めの挨拶みたいなことをもっともらしくしゃべってみる。

 そんな調子で、会は一応なごやかに進んだのだが、途中から男性陣、女性陣のグループが出来上がってしまった。う、奥様方のなかにひとり放り込まれてしまうのか。ピンチ! 私以外の奥様方は当たり前だけどお互い知ってるから、共通の話題で盛り上がっている。

「そうそう、この前木下さんに教えていただいた仕立て屋さんで、ワンピースを作りましたの。ジムトンプソンの布で作ったんですけどね、仕立て代とあわせて5000バーツくらいだったかしら」

 えー、5000バーツって高いじゃん。その値段なら、日本の既製品を買うね、私なら。

「でしょう? 実はこれもそこで仕立ててもらったワンピースなんですよ」

「あらぁ、どうりでステキだと思いました。よく似合ってらっしゃるわ」

 そ、そうか? 私の目が悪いのか? なんかパジャマの柄みたいだし、ピチピチなのは気のせい? こんなこと思うのって私だけ? まあいいや、こうなったら愛想笑いしながら食べに走ろうっと。あ、でも下っ端らしく〃何も知らないんですぅ〜〃的な態度をとっとくべき? と思い直し、適当に質問を投げかけてみる。

「みなさん何か習い事とかなさってるんですか? 来たばかりで何していいかわかんなくって」

 すると副支社長婦人が、待ってましたとばかりにアドバイスしてくれた。

「そうね、谷崎さんもそろそろタイ語学校に通われたほうがいいわね。私が行っている学校を紹介するわ」

 実は彼女も半年前に来タイしたばかりで、タイ語勉強中だったのだ。かくして私は恐れ多くも副支社長夫人と同じ学校に通うハメになったのだが、そこは〃駐妻が少なくて、白人のかっこいい男の子とかがいっぱいいる学校がいいな〜♪〃という私の希望とはかけ離れた、駐妻御用達の学校なのだった。あぁ、こんなこと聞くんじゃなかった……。

 そんなこんなで、何とか無事終えた歓迎会。帰り道、

「奥様同士の会話って、何であんな白々しいお世辞の言い合いなわけ? うざーい。めんどくさーい」

 と、ダンナに散々愚痴ってそのときはおさまったのだが、こんなのまだまだ〃駐妻のディープな世界〃の序の口だとは、そのときの私は知る由もなかった。


【Profile】
兵庫県出身の28歳。大学卒業後、地方局にアナウンサーとして就職。その後、出版社に転職し、キャリアを積もうと思っていた矢先に、商社勤務の夫がバンコクへ赴任。駐妻生活を楽しむ努力をしているが、ほかの駐妻となかなか馴染めないのが悩み。

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